2012年12月30日日曜日

ITIM分野の実務者が興味を持ったのは?(2012)

藤原です。
早いもので今年も残すところ、あと2日となりました。
ブログを読んでくださっている皆様にとって、2012年はどのような1年だったでしょうか?

今年から本ブログ「IT投資マネジメント情報局」への投稿を隔月で担当するようになりましたが、ブログ記事を書くにあたり、様々な関連分野の情報に触れる機会が増えたことで、自分自身にとって多くの「気づき」や「学び」へ繋がる良いきっかけになりました。

多くの参考情報を提供してくださった諸先輩や、このブログを見てくれた方々、フィードバックをくださった読者の皆様に深く感謝します。

今回は年内最後の投稿ということで、1年の振り返りとして毎年恒例?となりました Google Analyticsの統計データから一部をご紹介したいと思います。



■全体傾向(訪問数、ページビュー数、他)

  • 訪問者数は昨年に比べ、約500人程度(昨年は3,332)増加しています。
  • 残念ながら、直帰率が昨年より2%ほど増えています。

月に一度の投稿ではありますが、前年比で訪問者数が増えていることはとても嬉しいです。ただ、昨年と同様に直帰率が高い状況にあるということは、新たに興味を持った方々にとって、コンテンツの内容として、まだまだ期待に応えられていないということですね。


■参照元(ソースメディア)
  • 参照元は、昨年同様にGoogleからの検索結果が一番多い(約6割)です。
  • facebook経由のアクセスが昨年に比べて僅かながら増えています。 



■検索傾向(キーワード)
  • 検索キーワードとしては、昨年と同様に「IT投資」「ガイドライン」が多い傾向にあります。
  • 昨年に比べ「アプリケーションポートフォリオ」というキーワードから検索されてきたケースが増えています。
  • PPM製品では、「MS Project Server」が最も多く、上位10件には入っていませんが、「ca clarity」「oracle primavera」等での検索によるアクセスもありました。

ガイドライン等が検索傾向として多いのは想定できるとして、「アプリケーションポートフォリオ」や「プロジェクトポートフォリオ」に関連するキーワードが増えている傾向にあるのは、測定・評価ということを重要視する動きが高まっていることの表われなのでしょうか。


■閲覧ページ

閲覧ページの傾向に加え、検索キーワードでも「PPM 事例」等が数件あったことから、PPM製品に関する注目が高まっているのかもしれません。


■アクセス元(地域)

  • アクセス元の地域は、昨年と同様に東京が最も多く、神奈川、大阪と続いています。
  • 北海道から沖縄まで全国各地からアクセスがありました。
  • 世界で見ると、オーストラリアからが最も多く、100件以上もの訪問数がありました。


2010年2011年と同様に、同じ評価視点で簡易分析をしてみました。

年間の訪問者数が昨年に比べて増加したことは、とても嬉しいことですが、直帰率が依然高い状態であることから、まだまだコンテンツの充実を図っていかなければならないと感じています。

来年もIT投資マネジメントに関連する分野の皆様にとって、有益な情報を発信できるよう取り組んでいきたいと思います。

それでは、最後まで読んでくれた皆様・・・
良いお年を。
来年もどうぞ宜しくお願いします。

2012年11月30日金曜日

IT投資のオペレーション・マネジメントとは?

河田です。
前回の投稿でカリアック会議での発表内容(コンテンツ)を紹介したところ、予想以上に多くの方からアクセスがあったので・・・今回は少し遡って、昨年のカリアック会議での発表の話を少し。

カリアック会議の概要は、過去の投稿「カリアック会議で学んだ3つのコト」で紹介していますが、昨年の会議では「IT投資のオペレーション・マネジメントの価値」というテーマで発表しました。

-------------------------------------------------------------------------------

「オペレーション・マネジメント」とは・・・システム開発後(サービス稼働後)の、運用・保守フェーズにおけるマネジメントの概念を指しています。

一般に「オペレーション・マネジメント」と言うと、主に製造業を中心とした生産管理プロセスの運営管理にフォーカスした話が多いようですが、ここで紹介している「オペレーション・マネジメント」は、企業情報システムにおける運用・保守フェーズのマネジメントを指し、大別して「運用」・「保守」・「稼動資産管理」の3つで構成されます。

なお、企業情報システムの運用・保守フェーズのマネジメントとしては、ITIL(IT Infrastructure Library)が有名ですが、ITILが運用・保守の「プロセス」に着目しているベストプラクティスの概念であるのに対し、オペレーション・マネジメントは該当フェーズの活動を「IT投資マネジメント」の切り口で捉えているところが、一番の違いと言えます。

前置きが長くなりましたが、今回は「オペレーション・マネジメント」について、「環境変化」と「重要性」の2点に絞ってご紹介したいと思います。


【環境の変化】
ITの環境変化は数え上げればキリがない話になりますが、運用・保守フェーズで考えた場合に意識すべき考慮点として、少なくとも以下の3点はインパクトが大きいと考えられます。

  1. クラウド化
  2. システム開発手法の変化
  3. IFRSへの対応

企業情報システムのクラウド化は、言い換えれば「システムがサービス化し、選択責任が利用者に移ること」ですが、クラウド化の進展により、従来以上にシステムの「サービス」という側面が意識されることになります。
サービス化されたシステムは環境変化に柔軟に対応するための対応(システムの機能追加、品質向上に繋がる継続的な改善)が従来以上に強く・素早く求められると言えます。

少し刺激的なタイトルですが、下記の特集も興味深いですね。



また、システム開発手法の変化という面でも、大規模システムはまだ従来手法ながら、新規の小中う規模システムにはアジャイル開発の採用、継続を前提とした開発が増えてきていますね。



また、会計制度としてのIFRS対応という面でも、(今後の議論の進展によっては)大きな影響が考えられます。
具体的には、投資判断の基準が「収益基準」から「資産負債基準」にシフトすることで、結果として下記を考慮する形で運用・保守フェーズで継続的にIT資産の管理が求められる可能性もあります。

  • 従来以上に投資結果を資産/負債として正しく把握する
  • IT投資においても資産、費用を正しく管理すること(耐用年数、減損)


このような環境変化に加えて、オペレーション・マネジメントの対象業務そのものも変化しています。




つまり、オペレーション・マネジメントの目的も「情報システムの維持・運行」から、「IT資産価値の維持・増大」へと変わらざるを得ない状況が生まれていると言えます。


【オペレーション・マネジメントの重要性】
運用・保守フェーズにおける調査・分析レポートは非常に少ないですが、該当分野にフォーカスを当てている調査の一つである、JUASのソフトウェアメトリックス調査によれば・・・

  • 多くの企業において、新規開発より維持費用に多くのコストがかかっているのが実情
  • 一定規模のシステムで、追加開発無しで継続利用するシステムはない
  • 自社開発システムの約6割は、稼動時の品質が「普通以下」と評価
  • 自社開発システムは、稼動後5年間で初期開発費の約5割に相当する保守費が発生

ということが報告されています。

このような状況を踏まえて、システム開発のライフサイクルに対応つけられたIT投資マネジメントのサイクルについても、変化が求められています。

  • 従来は、企画・計画フェーズのIT投資判断の在り方(所謂、事前評価)の議論が中心
    今後は、運用・保守フェーズのIT投資判断の在り方の議論も必要
  • 従来の事後評価は、事前評価の結果証明が中心
    今後は、機能追加を含む「保守」の評価の組み込み、システム稼働後の資産評価も必要


また、下記の点を考えれば、オペレーション・マネジメントはこれからもっと議論されるべき余地があると言えます。

  • 新規開発費のどう使うか?という積極的な議論に対し、維持費用は常に消極的なコスト削減議論の対象に留まることが多い
  • 維持費用と一言で言っても、投資の性質は一律ではなく、企業戦略に基づく大きな機能追加対応(拡張保守等)も増えている
  • 新規に開発するシステムは稼働するまで何ら価値を生み出すことは ないが、稼働中のシステムは既に何らかの価値を生み出している

このような点を考えていくと、「維持運用を重視」とは言わないまでも、「軽視すべきでは無い」と言えますね。

ちなみに、冒頭で触れたITILについて、2000年に公開されたv2と2007年に公開されたv3を比較してみると、ITILの変化にオペレーション・マネジメントとの関連性が見えてきます。
切り口が違うITILの変化からも、オペレーション・マネジメントの必要性が言えますね。


【まとめ】

  • 今後のIT投資マネジメントでは、オペレーション・マネジメントが重要なテーマの一つに
  • オペレーション・マネジメントでは、 「保守の評価」、「稼動資産の評価」が重要
  • オペレーション・マネジメントの取り組みとして、継続的なサービスマネジメントがKeyになる(サービス・ポートフォリオ管理、サービスレベル管理)


最後に、上記の話を含む発表資料を以下に公開しています。


オペレーション・マネジメントはIT投資マネジメントの中ではこれからの分野ですが、机上論ではなく実践的なアプローチが求められる段階になってきたと感じています。

IT業界の中ではネガティブなイメージが多いこの分野において、このエントリを見て、「オペレーション・マネジメントの価値」に興味を持つ方が一人でも増えてくれるとを願っています。

2012年10月31日水曜日

PPMツールの導入事例について

藤原です。
今回は、CA社発行の情報誌『Smart Enterprise vol.6』にて、PPM(Project Portforio Management)製品の新しい導入事例が紹介されていましたので、その話を少し。

------------------------------------------------------

情報誌に掲載されていたのは「三菱東京UFJ銀行」が2012年1月より「CA Clarity PPM」を導入した事例に関する記事です。

同製品の導入事例としては、以前のエントリ「PPMツールの導入事例について思うコト」にて「アフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)」の事例を紹介しましたが、今回紹介する「三菱東京UFJ銀行」の事例は、導入目的や利用方法が異なっています。

※「アフラック」の導入事例に関する詳細はコチラを参照ください。

「アフラック」では、IT投資案件の可視化とガバナンスを目的として導入している(ポートフォリオ管理を支援するツールとして)のに対し、今回の「三菱東京UFJ銀行」の事例では、プロジェクト管理の効率化と情報共有を目的としている(プロジェクト管理を支援するツールとして)点で違いがあります。

記事にて紹介されている内容をまとめると、

【導入の目的】

常時300ものプロジェクトが稼働している状況において、プロジェクト管理に関する以下の課題への対応が必要だった。

  • 効率化:同行ではPMBOKに準拠した管理手法が確立している。しかし個々の作業レベルで、進捗管理/WBS作成等はExcelがベースで、フォーマットの差異への対応、作成の作業負荷等に課題
  • 情報共有:現場、管理層(PM)、経営層の3レイヤ間での情報共有の方法
  • 分析:プロジェクトの実績データ等の分析作業もExcelを使用

【ツール選定のポイント】

  •  現行の管理手法に適用させるための柔軟なカスタマイズ性
  • 数千人がストレス無く利用できる優れたパフォーマンス
  • 海外導入の容易さ(多言語対応)

【ツール導入と利用状況】

  •  各プロジェクトの管理ツールとして「CA Clarity PPM」を採用
  • 各種管理作業、分析作業の効率化、効果的な情報共有基盤として活用中
  • ただし、予算管理とポートフォリオ管理には、自社開発の既存ツールを利用中
  • 今後、既存の仕組みとの兼ね合いを考慮しながら、「CA Clarity PPM」の適用範囲を拡張していくことを検討中


今回紹介した導入事例は、IT投資状況の可視化という側面ではなく、プロジェクト管理の側面からの導入でした。

IT投資効果の最大化に向け、様々な意思決定を推進していくためには、その判断材料として、総合的なプロジェクト管理・分析が重要であり、その実績データには高い精度が求められます。同行の取組みは、まさにその地盤作りともいうべきものだと思います。

今後も、企業におけるITプロジェクトの乱立、大規模化や多様化は避けられず、横断的に複数のプロジェクトを効率的に管理、分析することの重要性は高まるはずです。

PPMツール等を利用した横断的なプロジェクト管理を行うメリットとして、
IT投資効果を測る上での効果的な判断材料を整理できる点にあると思いますが、
加えて、
過去や現在進行中の他のプロジェクトと共通の基準で比較評価できることは、
自身のプロジェクト活動を見直し、改善に取り組みきっかけにもなることから、
現場におけるプロジェクト品質向上への動機付けとしての効果を果たす
というメリットもあるかと思います。

今後も、PPMの活用によって、効率的なプロジェクト管理活動を実現しつつ、
IT投資効果の最大化に向けた取り組みを推進する事例が、さらに増えていくことに
期待したいと思います。


2012年9月27日木曜日

カリアック会議で学んだ3つのコト

河田です。
9月8日(土)~9(日)に、「中小企業のIT経営研究会」浜名湖フォーラム(通称:カリアック会議)に参加しましたので、今回はその話について少し。

-------------------------------------------------------------------------------
カリアック会議は、
  • 経営情報学会の「中小企業のIT経営研究部会」
  • 武蔵大学の「松島教授オープンゼミ」
  • ITコーディネータ協会の「IT経営研究所」
3者合同の研究合宿で、浜名湖畔のカリアック(商工会議所研修センター)で開催されました。

実際のセッション内容、雰囲気については、参加者の一人であるシーポイントの佐野さんが写真付きのBlog記事「カリアックで鍛える」で紹介されていますが、

大学教授の先生方にはじまり、
各界で、全国で活躍の皆さんが、ここ「浜名湖畔 カリアック」に集合したのです。
まるでメジャーリーグのオールスターを観てる気分でした。
この「演題タイトル」、まじ、スゴイっすよ。

という説明には、私も同感です。


今回で二回目の参加となる研究合宿でしたが、前回以上に多岐に渡るテーマに関する発表がなされ、とても中身の濃い時間を過ごせたと思います。


様々な分野の専門家、有識者、経営者の方々が集まり、肩書きや立場に関係なく議論するというスタイルは、とても新鮮で、会場に熱気があり、そして・・・心地良い緊張感も漂いました。

個々のテーマについて学んだコトを書くと、、、キリが無いくらいに色々な話があったのですが、その中でも特に私にとって重要な「気づき」に繋がったコトを3つご紹介します。

発表を聞いていないと・・・
議論に参加していないと・・・
そして一緒に深夜までお酒を飲んでいないと・・・???、
文章だけでは上手く伝えられない気がしてとても残念ですが、、、備忘録も兼ねて。
  1. Catalyst(触媒)としてのクラウドの重要性
    これまで個々個別に行われていた互いの業務や作業を結合させ、互いに利益をもたらす新たなビジネスのモデルを作り出すまでの設計がITベンダーに求められている(横田先生、スマイルワークス:坂本さん) 
    →クラウドの価値をコスト抑制、費用化モデル、俊敏性等のITリソースの所有/利用の世界で語るのではなく、クラウドのプラットフォームが無ければ実現できない「新たな付加価値」の視点で、実例も交えた話として聞けたのは、とても興味深いです。

  2. 個別の具体論ではなく、共通項から本質を考えることの重要性
    共通項を考えないで、個別の案件、取り組みの成果を比べることに意味は無いし、議論のテーマじゃない。個々の案件、取り組みにどんな共通性があったのか?その取組みはビジネスの成功に正しく繋がったのか?という本質を考えるべき。(手島先生)
    →「耳が痛い」というのは正に。。。と感じるお話でした。分かりやすい具体論(成功例)にはついつい共感しがちですが、本当に重要なのはケース・バイ・ケースの例ではなく、共通項であり抽象化できる概念、本質ですよね。

  3. ヘテロジニアスの重要性
    ヘテロジニアスな世界で勝負をしなければ、人間は成長できない。ホモジニアスな世界は居心地が良いが、大して成長しない。企業人はもっと積極的に外の社会に出て、異質な世界から多くのことを学ばなければならない。(黒岩先生)
    →技術の世界で広く深く世界と関わり、道を切り開いてきた方だからこそ・・・の重みのある話でしたが、偶然にも自分の経験と重なる部分が少しあったことも嬉しかったです。

私の中では、とても重要な気づきだったのですが、自分で書いた文章を読み返してみると、相互の関連性も無く、伝わり難いですね。ホントに。。。
この拙い表現でも、詳しく知りたいという方がもしいらっしゃったら、ご連絡下さい。

ちなみに、カリアック会議では「ソフトウェア資産管理とIT投資マネジメントの関係性」というテーマで、拙いながら…私も発表させてもらいました。



このBlogの過去のエントリ「「ソフトウェア資産管理(SAM)とは?」、「ソフトウェア資産管理(SAM)とは?(その2)」の延長線上の話ですが、
多くの有識者の方々から貴重な指摘をもらえたことは、とても有難く、
また一部の方から共感のコメントを頂けたことは、とても嬉しかったです。

最後に、この貴重な機会を提供して頂いた関係者の皆さん(特に、松島先生、IBMの栗山さん、日本商工会議所の小松さん)には、「感謝」以外の言葉が見当たりません。

本当にありがとうございました!!!

2012年8月31日金曜日

BABOKとIT投資マネジメントの関連性

藤原です。
3回目の投稿になりますが、隔月とはいえ、
テーマを意識したネタ探しや作文というのは、なかなか大変ですね。

-------------------------------------------------------------------------------

少し前に、BABOK(Business Analysis Body Of Knowledge)の研修に参加しました。
研修や自身での勉強を通じてBABOKを読み解く中で、IT投資マネジメント活動との関連性を感じる部分があったので、今回はその話をしたいと思います。

BABOK、BAとは?

BABOKとは、ビジネスアナリシス(BA)を行う為に必要なタスクやテクニックをまとめた知識体系であり、BA活動に関する共通のフレームワークです。
カナダのIIBA(International Institute of Business Analysis)という団体が2005年に初版を発行し、現在2.0版が最新となっています。

ビジネスアナリシス(BA)は以下のように定義されています。

ビジネスアナリシスとは、組織の構造とポリシーおよび業務運用について理解を深め、組織の目的達成に役立つソリューションを推進するために、ステークホルダー間の橋渡しとなるタスクとテクニックをまとめたものである。

また、BA活動を7つの知識エリアとして定義しています。
各知識エリアには、それぞれ関連する複数のタスクが含まれています。

  • 計画と監視
  • 引き出し
  • 要求マネジメントとコミュニケーション
  • 企業分析(EA)
  • 要求分析(RA)
  • ソリューションの評価と妥当性確認(SAV)
  • 基礎コンピテンシー

それぞれの知識エリアに関する詳細説明は、今回は省略させていただきますが、各種情報サイトの多くの記事で紹介されておりますので、そちらを参照ください。

また、BABOK自体も、IIBA日本支部のHPから購入することが可能です。
http://store.iiba-japan.org/

BABOKに記述される各知識エリア・タスク全体を通して、
BA活動のポイントを概略すると、以下となります。

  • 組織、業務を理解し、組織のビジネス上のゴールや目的を明確化する
  • ステークホルダーが目的の達成に必要とする機能や能力を要求として引き出し、構造化し、文書化する
  • 要求を分析し、目的達成との整合性を確認する
  • 実装担当(プロジェクト)に要求を正しく伝達し、提案されたソリューションの妥当性を確認する
  • 導入されたソリューションのパフォーマンスを評価する


BAタスクとIT投資マネジメントとの関連性は?

BA活動について、IT投資マネジメントの活動の関連性としては、

  • 組織の目的、その達成に必要な「要求」に関して、評価・判断するための指標を定義することを重要としている点
  • 組織の目的を達成するための「要求」に優先順位を付け、妥当性を確認するタスクを有している点
  • ソリューション導入後に、要求を満足する効果を果たしているか評価し、次の分析活動へ繋げるタスクを有している点

が挙げられると思います。

BABOKでは、ビジネス上のゴール、目的は「SMARTであるべき」としています。

 S:Specific(具体的)
 M:Measurable(測定可能)
 A:Achievable(現実的)
 R:Relevant(目的と関連している)
 T:Time-bounded(締切りがある)

また、優先順位付けられた「要求」(そして、その要求を満足するソリューションに対して投資すること)が妥当かを判断するための指標についても例示しています。

  • 前提条件の識別
  • 評価基準の設定(KPI)
  • ビジネス価値の確認
  • 要求トレーサビリティの確認
  • ビジネスケースとの整合性
  • 機会コスト

以下のタスクに関しては、「測定可能な評価基準の定義が必要」としています。

 「5.5 ビジネスケースの定義」
 「6.6 要求の妥当性確認」
 「7.6 ソリューションのパフォーマンス評価」

BAタスクに記述されている、投資する要求、ソリューションに対する妥当性確認や、導入したソリューションに対して、定量的・定性的な評価を行い、その効果を判断すると共に、次の取組みへと繋ぐ活動は、IT投資マネジメントにおいても共通であると思います。


私自身、BABOKについてまだまだ勉強不足で、解釈の間違い等があるかもしれません。
今後、読み解きを続ける中で、また新たな気づきがあれば、ご紹介したいと思います。

2012年7月30日月曜日

ソフトウェア資産管理(SAM)とは?(その2)

少し前に「ソフトウェア資産管理(SAM)とは?」というエントリでソフトウェア資産管理の概要、及び対象範囲に触れましたが、今回はその続きです。

ソフトウェア資産管理の対象範囲が、「基準/ガイドラインで定義された範囲」と、「一般的に実務で扱われる際の範囲」で大きな差異があることは前回書きましたが、この違いは以下の2つの問題に起因しているのではないか?と考えています。
  • 技術的な仕組みの問題
  • 会計上の管理の問題
つまり、概念モデル(机上論)としては広範な範囲を対象にできるけど、実務上は上記の問題が解決できないために、、、結果として範囲が限定的になるのではないかな?と。


「技術的な仕組み」については、今回のテーマではないので、簡単に触れておくと・・・
汎用性、共通性、標準性の高いクライアントPCに比べサーバーの技術仕様を標準化することが難しいことがその真因と考えています(具体的に言えば、OSレベルで異なること、エージェントアプリの導入による影響が懸念されること、それらに起因するAPIの課題・・・が挙げられます)。

前置きが長くなりましたが、今回はこの「会計上の管理」に関係するソフトウェア資産管理におけるIT投資のアプローチについて、少し考えてみたいと思います。

【国内会計基準におけるソフトウェア資産の扱い】
まず、会計制度的な扱いについて、国内ではソフトウェア資産(無形固定資産)に関する包括的な規定が無いため、下記の2つの規定からその目的に応じて会計処理が判断されることになります。
  • 「研究開発費等に係る会計基準」企業会計審議会
  • 「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」会計制度委員報告第12号

このため、多くの企業においてソフトウェア資産は、「自社利用ソフトウェア」という扱いの無形固定資産として計上され、5年の定額法で減価償却することが一般的になっています。


つまり、ソフトウェア資産として一時的に資産化はされるものの、あくまで会計上の費用処理の管理であり、仮に6年以上利用するアプリケーションであったとしても、減価償却後の価値は認められていません。(言い換えれば、「価値」としては管理されていないことになります)


【国際会計基準(IFRS)におけるソフトウェア資産の扱い】
少し視野を広げて国際会計基準(IFRS)におけるソフトウェア資産の扱いを見てみると・・・国内基準とは考え方が少し違います。

IAS第38号によれば、(ソフトウェア資産を含む)無形資産は
過去の事象の結果として企業が支配し、かつ、将来の経済的便益が企業に流入することが期待される資源のうち、物質的実体のない識別可能な非貨幣性資産」
と定義され、無形資産の要件として、以下の2つが定められています。
  1. 資産に起因する、期待される将来の経済的便益が流入する可能性が高いこと
  2. 当該資産の取得原価が信頼性をもって測定できること
つまり、国際会計基準では上記の要件さえ満たせばソフトウェアを資産として計上し、継続的に価値を認める(管理する)考え方はあると言えます。

但し、既に国際会計基準(IFRS)導入済みの欧州企業でさえも費用処理/資産化の対応が分かれているのが実情であり、
国内基準への適用(資産化の是非)についても企業会計基準委員会(ASBJ)で無形資産に関する論点の整理(H21.12.18)」でも問題提起され、審議事項(5)-3 検討論点:社内開発費の資産計上について」審議されている状態です。
開発に係る支出を資産計上するか否かについては、それが無形資産の定義に該当し、認識要件を満たす以上は資産計上すべきであるという見方がある一方で、そもそも経済的便益をもたらす蓋然性の要件を判断するのが困難ではないかという点や、その運用において資産計上すべきか否かの判断に企業間でばらつきが生じるのではないかという点から従来通り支出時の費用とすべきであるという見方もある。 
この辺りの難しい論点は会計制度の話なので、専門の会計士の議論の結果を待つしかありませんが、この資産計上の可否はあくまで(財務的な)会計上の扱いの話に過ぎません。

【知的資産としてのソフトウェア資産】
次に、ソフトウェア資産を知的財産/資産として捉えると、まずソフトウェアは知的財産としてそのプログラムの表現が著作権法で保護されています。
そこで、知的財産の会計上の扱い、及び価値評価について少し考えてみると…

  • 特許権、商標権に代表される知的資産は、無形固定資産として扱われる
  • (企業統合、M&A等の客観的に資産性を算出するタイミングを除けば)財務会計の視点で評価(資産計上)はできない
  • 知的資産の価値を評価する目的は多岐に渡る(必ずしも会計的な視点は求められていない)


このように、知的財産は(無形資産と同様に)会計上では評価が難しいものの、内部管理の目的において適正な評価を行い、知財戦略として積極的に活用するという考え方は一般論としても妥当と言えそうです。

【会計区分と管理会計のアプローチ」
ここまでの文章では、会計=財務的な扱いを前提に書いてきましたが、企業会計には財務会計だけでなく、管理会計のアプローチがあります。


つまり、会計制度に大きく影響を受ける財務会計の視点でソフトウェア資産管理を考えると、様々な面で限界がある(できることもあれば、できないこともある)ことになりますが、管理会計の視点としてソフトウェア資産管理を考える場合は、企業独自の考え方を適用できます。

【まとめ:IT投資マネジメントとソフトウェア資産管理】
最後に、ソフトウエア資産管理とIT投資マネジメントの関係性について、前回・今回の内容を纏めて考えてみると・・・

  • ソフトウェア資産管理は「セキュリティ強化、IT投資の最適化」を目的とし、有償/無償を問わないソフトウェア全体(稼働するハードウェアも含む)が本来の対象範囲である→しかし、実際には多くの企業で、「ライセンスコンプライアンス」を目的として、有償ソフトウェアの管理のみに対象範囲が留まっていることが多い(自社開発アプリケーションは事実上管理されていない)
  • 国内会計基準では、一時的に資産化はされるものの、あくまで会計上の費用処理(減価償却費)の管理のみで、価値としては管理されていない
  • 国際会計基準(IFRS)では、ソフトウェアを資産として計上し、継続的に価値を認める(管理する)考え方はあるものの、その要件は厳しい
  • 知的財産としてソフトウェア資産を(財務)会計視点で(資産計上することを考慮して)価値評価することは難しい
    →しかし、
    管理会計の視点で「自社の経営管理に役立つ情報」と位置づけ、適正な評価を行い、企業活動に積極的に活用するという考え方は一般論としても妥当

このように見てみると、「IT投資マネジメントの一つのテーマとしてソフトウェア資産管理を扱う意義は大きい」という仮説が成り立つのではないかと考えています。

今回は様々な視点での概論になりましたが、このアプローチについては、現在検討を深めているところなので、内容が纏まった時点で改めて公開したいと思います。

2012年6月30日土曜日

イギリス内閣府『Management of Portfolio(MoP)』の概要

今回は、イギリスの内閣府(Cabinet Office)から発行されているポートフォリオマネジメントのベストプラクティス「Management of Portfolio(MoP)」について、概要をご紹介したいと思います。
イギリス政府では、ベストマネジメントプラクティス(マネジメントに関する成功事例集)に関する多くの文書を発行しています。今回ご紹介するポートフォリオマネジメントに関する文書以外でも、ITサービスマネジメントのベストプラクティスとして認知されている『ITIL』を発行しているのも、このイギリス商務局です。
(発行所管については、2010年に、商務局(OGC)から内閣内閣府(Cabinet Office)に移管されています)

MoPは「適切なポートフォリオ管理のロードマップを設計するために有用なアドバイスを提供するものである」と記されています。
MoPは、5つの原則、及び2つのマネジメントサイクルとそこに含まれる12の慣行(管理項目)によって構成されています。

5つの原則
  1. 上級経営者層によるコミットメント
  2. ガバナンスとの整合
  3. 戦略との整合
  4. ポートフォリオオフィス構築
  5. 変革の文化に対する意欲

2つのサイクルと12の慣行
  1. ポートフォリオ定義サイクル
  2. ポートフォリオ実行サイクル

 ポートフォリオ定義サイクルに含まれるプラクティス
「理解(把握)する」
「分類する」
「優先度を設ける」
「バランスを考慮する」
「計画する」

ポートフォリオ実行サイクルに含まれるプラクティス
「マネジメントコントロール」
「ベネフィットマネジメント」
「財務マネジメント」
「リスクマネジメント」
「ステークホルダーマネジメント」
「組織ガバナンス」
「リソースマネジメント」

このような項目で箇条書きすると、知識体系のような印象ですが、MoPは知識体系や標準という位置付けではなく、あくまでガイドという位置付けで、ベストプラクティスの利用事例、ベストプラクティスに関する実践方法等が説明されています。

こうした実例を通して纏められた様々な示唆は、実務における様々な局面において有益な情報になると思います。

今回はご紹介はあくまで概要レベルですので、 ご興味のある方は是非原文をご参照ください。

2012年5月31日木曜日

ソフトウェア資産管理(SAM)とは?

先日、研究会でソフトウェア資産管理(SAM)とIT投資マネジメントの関係性についての話をしたので、今回はその中からソフトウェア管理の話を少し。

【ソフトウェア資産管理(SAM:Software Asset Management)の概要】
  • 「組織内のソフトウエア資産の有効な管理、制御及び保護」のために、ライフサイクル全般にわたってソフトウエアの使用・保有状況などを管理する仕組みの総称
  • 近年の法規制の変化(利用者視点)と、ソフトウェア違法コピーによる損害の高まり(権利者視点)から、2000年代に入ってから急速に注目を集めている分野
  • 2001年にソフトウェア資産管理コンソーシアム(SAMCon)が設立され、「ソフトウェア資産管理基準」を策定すると共に、国内企業のSAM実践に対する啓蒙活動を実施( ※現在はSAMCon→SAMAC
背景(法規制の変化等)について、もう少し詳しく知りたいという方は、「ITPro」「ビジネス+IT」に分かりやすく纏められています。

【主な管理基準、ガイドライン】
  • ISO/IEC19770-1
  • :ソフトウエア資産管理の国際規格として2006年に策定
  • JIS X 0164-1
  • :ISO/IEC19770-1の同一翻訳(IDT)の国内規格として2010年に策定

特にISO/IEC19770-1は、色々なサイトで参照扱いされていることが多いですね。


ここからが本題になりますが、、、
ソフトウェア資産管理は、基準/ガイドラインで定義された目的(対象範囲)と、一般的に実務で扱われる際の目的(対象範囲)は、結構違いがあります

実際にソフトウェア資産管理の目的について、ISO/IEC19770-1では
  • 「ITサービスマネジメント全体の有効な支援」
  • 「ビジネスリスク管理の促進」
  • 「ITサービス及びIT資産に関するコスト管理の促進」
  • 「ITを有効に活用することによる競争上の優位を得ること」
と広義の概念が定義され、その対象範囲についても
ソフトウェアの性質に関係なく,すべてのソフトウェア及び関連資産に適用できる。例えば,実行可能ソフトウェア(アプリケーションプログラム,オペレーティングシステム,ユーティリティプログラムなど)及び非実行可能ソフトウェア(フォント,グラフィック,音声,映像,テンプレート,辞書,文書,データなど)に適用できる。(中略) あいまいでない限り,すべてのソフトウェア,すべてのプログラムソフトウェア,特定のプラットフォーム上のすべてのソフトウェア又は特定の製造業者のソフトウェアのような,組織が適切と考える何らかの方法で定義をしてもよい。
と明記されています。

特筆すべきは、OSSに代表される無償ソフトウェアは勿論のこと、内部開発のソフトウェアについても適用可能という点ですね。
実際にISO/IEC19770-1のプロセスとして、「開発」~「展開」~「廃棄」に至るソフトウェアライフサイクルも定義されています。

一方、実務上のソフトウェア資産管理の目的は
  • 「著作権法、及び使用許諾条件の順守」
と非常に限定的に扱われ、対象範囲も有償ソフトウェアのみ(≒ソフトウェアライセンス管理)と位置付けている場合が非常に多いのではないかと感じます。

例えば、該当分野の主力製品が提供している機能範囲(主としてPC上のソフトウェア管理、構成管理)からも、上記の傾向は明らかと言えます。
#どこの製品とは言いませんが・・・「ISO/IEC19770-1に準拠」と明記しながら、PC管理の機能しか提供していない製品もありますね。

基準と実務でこれほど差が大きい管理概念も珍しいのではないでしょうか?

つまり、本来のソフトウェア資産管理は、「セキュリティ強化、IT投資の最適化」を目的とし、有償/無償を問わないソフトウェア全体(稼働するハードウェアも含む)が対象範囲ですが、実際には多くの企業で、「ライセンスコンプライアンス」を目的として、有償ソフトウェアの管理のみに対象範囲が留まっていると言えます。



「あらゆるソフトウェアを管理すべき!」とまでは言いませんが、ソフトウェア「資産」の管理と言いながら、その資産の中身は「PCに関連する保有ライセンスのみ」に限定されるのは、やはりあるべき姿とは言い難いと感じます。

投資額を考えても、、、多くの企業ではPCに関連するソフトウェアコストよりも、システムに関連するソフトウェアコストの方が圧倒的に大きいですから。

勿論、システムに関連するコスト(投資)は、会計的な処理をしている云々の話もあると思いますので、その話は次回に。

2012年4月29日日曜日

プロジェクトマネジメントの視点から


前回エントリの最後に触れた通り、
「複数の視点を取り込むことにより、新たな気づきに繋がれば・・・」
という想いから、今回から隔月で同僚の敏腕プロジェクトマネージャに投稿をお願いすることにしました。

-----
今回、ブログ管理者からの依頼(強制?)を受け、
同僚の一人として記事を投稿することになりました。

拙い文章となりますが、ご容赦ください。

今回のテーマですが、私自身がこれまでの業務を通じてだったり、
或いは現在参加している研究会で諸先輩方から様々な知見を伺う中で
感じたことをメモとして残したいと思います。

私は、発注者側企業におけるPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)支援という
立場で仕事をすることが比較的多いです。

そこで感じたのは、
プロジェクト活動において「ビジネス上の成果という戦略的な視点を持つこと」の
重要性です。

まず、企業活動における『プロジェクト』の目的とは何か。

米国のプロジェクトマネジメント協会、PMIProject Management Institute, Inc.)では組織運営の在り方として「ポートフォリオ」「プログラム」「プロジェクト」の3層のモデルを提示しています。

それぞれの目的を簡単に纏めると(あくまで私が読み取った認識ですが)

・ポートフォリオの目的は、
戦略の実現の為に必要なプロジェクトを選定し、その実績や効果を評価すること。
(これは、IT投資マネジメント活動にも関係するものと考えられます)
・プログラムの目的は、
戦略実現の手段となるプロジェクトを企画・管理することで、戦略実現に貢献すること。 
・プロジェクトの目的は、 
品質・予算・納期等の制約の下、求められる成果物を作り出すこと。 
つまり、プロジェクト活動においては「求められる成果物を作ること」がゴールとも言えます。

プロジェクト関係者にとって、
「厳しい制約条件の下、無事に成果物をリリースし、プロジェクト成功を果たす」
その達成感は何物にも代え難い。大変なプロジェクトなら尚更嬉しい。
そして各々が思うわけです。「目的は達成した」と。

しかし、「プロジェクト」は本来、事業戦略の実現に向けた手段としての活動です。
作り出した成果物が、ビジネス上の成果を生まなければ意味がありません。

プロジェクト活動の実績は、投資効果を測る上での基礎数値となります。
プロジェクト関係者が、ビジネス上の成果という戦略的な視点を持ち、プロジェクトの実績を管理・記録、報告することによって、ポートフォリオへとしっかりと繋げる。

それによって、プロジェクトメンバーにとって、身を削って頑張ったプロジェクトが、
経営戦略の実現へ貢献する成果をもたらしたのか、しっかりと認識することができます。

その評価こそが「プロジェクト活動の意義」を見出すことに繋がるのではないかと思います。

と長々と書きましたが、私自身、PMOの支援をする中で、
まだまだこうした意識への働きかけが十分に出来ているとは言えません。
もっと頑張らないといけないなー、と感じています。

-----
やはりPMPホルダーの視点は「なるほど」と感じさせられます。
私もPMの仕事を通して、PMIの3階層モデルは漠然と理解していましたが・・・改めてその有用性を感じさせられました。
やはり、プロジェクトマネジメントの関係性を意識していくことは、IT投資マネジメントの活動上も重要ですね。

2012年3月30日金曜日

「IT Dashboard」に見るIT投資の情報公開

数日前に見かけたIAIA(行政情報システム研究所)の記事から辿った「米国政府のIT投資に関する情報公開」がとても興味深かったので、今回はその話を少し。
昨年9月に「IT Reform or ITリフォーム?」というエントリでご紹介した話の延長線上の話になりますが、米国はIT投資に関するポートフォリオマネジメントが重視されていますね。




記事の中から、IT Dashboardの目的を引用すると・・・

米国政府全体で700を超えるIT投資を公表することで、各省庁に重複したIT投資の削減、省庁CIOによるアカウンタビリティの強化、そしてプロジェクトなどの活動に関する詳細で正確な情報の提示に必要なツールを各省庁に提供することである。 また、同時に国民に対し、税金がどのように活用されているかを把握できる前例のない「窓」を提供することである。

と定義されています。

今回のアップデートの要点は利便性に関わる話が中心だったので、あまり実感は湧きませんが、
2009年に公開されてから僅か数年の間、しかも情報公開という手段によって、
「既に米国政府は40億ドルものコスト削減を成功」
という実績を示していることは、とても興味深いですね。



実際にその情報公開&情報提供の「窓」を見てみると・・・
(出典:Federal IT Dashboard
予想していた以上に情報が公開&提供されていることが分かります。

例えばポートフォリオを見てみると、組織別の支出では国防総省(DOD)が群を抜いていることが分かりますが、
更に情報をドリルダウンしていくと、
◇国防総省のIT投資は陸/海/空軍で概ね均等に使われていること
◇海/空軍では「Data Management」が投資の過半を占めているが、陸軍では「CRM」を中心に投資していること等、投資の内訳/状況がしっかりと開示されています。
また、グラフィカルなUIで必要な情報に辿り着きやすいこと、多くのデータをCSVで再利用可能な状態にしていることろも素晴らしいと思います。

正直なところ・・・ここまでは「ちゃんとやってるんだなー」ぐらいの感覚だったのですが、
投資案件の状況説明は、凄いと思います。

個別の投資案件のページでは、
◇コスト面では年度の投資額は勿論のこと、経年の予算/投資の推移
◇案件状態では評価状況(コスト面/スケジュール面)、評価指標とその具体的な内容
に至るまで、全て開示されています。
(出典:Federal IT Dashboard Global Combat Support System
例示の案件では、コスト・スケジュール共に問題無いので、青信号が点灯していますが・・・当然、案件によってはコスト、スケジュールに問題がある(赤信号が灯っている)ものも当然あります。

情報開示もここまで進むと・・・ホントにここまで広く開示する必要はあるのか?
透明性は大事だとは言うけれど、ここまでガラス張りになると・・・CIOはあまりに大変なのでは?
というのが率直な感想でしたが、
逆に言えば・・・ここまで徹底して開示したからこそ冒頭の投資抑制効果が生まれたとも言えるのかもしれません。

「政府たるもの、上手くいっていないものも含めしっかりと情報を開示すべし」という内部にも厳しい姿勢が根底にあるのかもしれませんね。ホントに凄いです。

更に、IT Dashboardには契約に関する関連サイトがあり、そのサイトでは契約情報もしっかりと開示されています。
(出典:USA Spending.Gov

例えば、IT Dashboardで赤信号案件についての情報を調べれば・・・契約額がいくら?で、その案件をどこのベンダーが担当しているか?という情報もしっかりと開示されています。
上手くいっている案件はベンダーにとっても実績のPRになりますが、諸事情により?上手くいっていない案件の場合は、ある種の公開処刑状態のような気も。。。

結局、米国政府が厳しいのは内部だけではなく、外部に対しても・・・ということですね。
米国政府、恐るべし。

ちなみに、日本の場合は?と気になったので、少しだけ調べてみたところ、e-Govのサイトに「各府省の予算執行情報」として、情報が公開されていました。
◇データ形式はPDFで、再利用は困難
◇グラフィカルなUIは皆無で、情報を探しだすのも大変
という残念な状況ではありましたが、契約情報も公開されていますし、「評価」を除けば概ね同等の情報が開示されていると言え無くもありません。

それにしても・・・同じ情報でも、情報公開の仕方一つで大きく印象は変わりますね。
米国は少しやりすぎな気もしましたが、逆に日本はもう少し頑張ってくれと。。。

IT投資の情報公開の粒度、方法を考えるときに、この日米比較は役立つかもしれませんね。


最後に・・・2010年8月に始めたこのBlogも、エントリを重ねる毎に内容が偏ってきたのでは?という気がしてきたので、次回からは少し趣向を変えようと思っています。
一つのテーマを一人の視点で取り組むよりも、複数の視点で取り組んだ方が、新しい発見もできそうなので。

2012年2月29日水曜日

PPM製品の市場変化?

少し前にプロジェクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM:Project Portfolio Management)製品を調べる機会があったので、今回はPPM製品についての話を少し。
#同じPPMでも・・・BCGが提唱したプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(Products Portfolio Management)の話ではありません、念のため。


PPMの製品市場については、2010年9月に「PPM製品の動向&市場」で話題として扱って以降・・・随分と間が空いてしまいましたが、改めて調べてみると興味深い情報が得られたので、ご紹介します。


まず、主力製品のポジショニングについて、Gartnerの市場分析レポート(Magic Quadrant)を過去2年間で比較すると、、、
出典:Magic Quadrant for Integrated IT Portfolio Analysis Applications 2011(Gartner) 
出典:Magic Quadrant for IT Project & Portfolio Management 2010(Gartner) 


この2つのレポートの違いを見てみると、、、

  • 対象企業が大幅に減っている(31社→13社)
  • ⇒企業買収・合併が多い分野とは言え・・・1年で半分になるもの?
  • レポート名が微妙に変わっている(for IT Project & Portfolio Management→for Integrated IT Portfolio Analysis Applications)
    ⇒私が恣意的に抽出するレポートを変えた訳ではありません。。。
  • Leader企業も大幅に入れ替わっている(Leader企業も6社から3社へ)
    ⇒各社のPPM製品機能や評価がたった一年で大きく変わるもの?


「市場の変化が早い」とは言え、何故だろう?と思って調べた結果、上記の違いの元となるWebinar資料が公開されていました!




詳細は上記の資料を見て欲しいと思いますが、ポイントを纏めると、、、

  • PPM市場は、分析するにはあまりに広がりすぎた(GartnerがUniverseと表現する位に)
  • 従来はプロジェクトのリソース管理という切り口で同一市場と位置づけていたPPM製品は、用途に応じた4分野(IT/NPD/PSA/AEC PPM※)分類できる
  • 結果、CIOの意思決定を支援するIT PPMに焦点を当てて市場分析することにした

    (※)IT:internel IT / NPD:new product development / PSA:professional servicies administration
       / AEC: traditional architecture, engineering and construction

当たり前の話ではありますが、図表だけ眺めていても読み取れない変化です。




ちなみに、国内のPPM市場は、、、
  • IDCでさえ「国内エンタープライズアプリケーション市場」として一括り(エンタープライズ・リソースマネージメント(ERM)製品の一つに区分)にして扱っている
    ⇒PPMの市場規模さえ未だ把握できない状況
  • 但し、広義のBI製品の中にポートフォリオ管理機能が組み込まれていたり、プロジェクト(工数)管理製品にポートフォリオ機能が組み込まれているケースが増加
    ⇒PPM製品としては多様化
  • 海外のPPM製品ベンダーが日本に進出し、一部には導入事例も(例えば、Scifoma

大きな変化は見られないものの、国内市場でも少しづつ変化の兆しは出ているように感じます。


このBlogのエントリーの中でもPPMをKeywordとしたアクセスは増加傾向にあるので、興味を持っている潜在的なユーザーは増加しているのかもしれませんね。


今年は会社の仲間が、PPMに関する研究会に参加して情報を収集してくれるはず?なので、そのアウトプットが今から楽しみです。

2012年1月26日木曜日

「バランス・スコアカード導入ハンドブック」(吉川武男・ベリングポイント著)を読んで

年末から書籍の整理を進めている中で、、、以前読んだ本の中から、新たな気づきがあったので、ご紹介します。

バランス・スコアカード導入ハンドブック―戦略立案からシステム化までバランス・スコアカード導入ハンドブック―戦略立案からシステム化まで
吉川 武男 ベリングポイント

東洋経済新報社 2003-10
売り上げランキング : 476129

Amazonで詳しく見る by G-Tools

2003年に発刊された本のため、事例や紹介されているシステム等は古さを感じますが、タイトルの通り「バランス・スコアカードの導入」に関しては、数少ない実践的な本だと思います。

本書は5つの章+付録で構成されていますが、個人的には2章、4章、付録が気に入っているので、その中から一部を紹介します。

■第2章.バランス・スコアカードの導入の成功と失敗
<主要な失敗の要因(第2章より引用:P.25)>
①中間管理職のみによるバランス・スコアカードの導入。
②バランス・スコアカードを密室のうちに購築すること。
③バランス・スコァカードを経営トップだけのものとすること。
④バランス・スコアカードの構築と導入に時間がかかりすぎること。導入に時間がかかりすぎると、勢いを失い、時には有害とすらなる。
⑤プロジェクト・マネジメントに関する熟練度の欠如。
⑥バランス・スコアカードを単なる業績評価プロジェクトとして取り扱うこと。
⑦バランス・スコアカードを単なるITプロジェクトとして取り扱うこと。
③社外の助けを得る際、経験のないコンサルタント等を誤って起用すること。

→「こうやれば良い」は重要ですが、「こうやったらダメ」という話は、もっと重要ですね。


■第4章.バランス・スコアカードの導入方法
具体的なアプローチがしっかりと纏められていますが、中でも特に共感した点を引用します。
顧客の視点での戦略テーマとは、売上高、利益、キャッシュフローといった結果に結び付くためには、顧客の信頼をどう勝ち得るかという共体的な行動計画である。「マーケットシェア○○%獲得!」といった売る側の論理に立った目標設定よりも、「ほしいものがすぐ手に入る店舗の実現」といった顧客が真に評価する行動計画であることが望ましい(P.87) 
バランス・スコアカードは作ることが目的ではなく、使うことが目的である以上、まず作ってみて使ってみてから、その結果に基づき視点を付け加えたり、視点間あるいは業績評価指標間のウェイトづけを変えるといった工夫を重ねていくべきものである。(P.100) 
頻繁に出る質問に「バランス・スコアカードには指標はいくつ必要か」というものがある。法則性があるわけではないので、いくつでもかまわないが、筆考の場合は各視点に2個から5個、したがって4つの視点で8個から20個と答えている。1つの視点に5つが一般に管理できる限界であり、また視点の中での重みが20%以上になると、その指標を重点的に管理しようという気が起こらなくなってしまうだろう。(P.102)
→ハンドブックという名に相応しく、実践的な指摘ですね。


■付録.KPIライブラリー集
重要成功要因、KPIだけで400項目、計30頁に渡って紹介されています!

私自身、数年前にこの本を読んだ時には「なるほど」という程度の印象しか無かったのですが、少し前に評価指標を考える機会があり、改めてこの本を手にとって見ると・・・(バランス・スコアカードの活用に限らず)、使えるなーと感じました。
バランス・スコアカードの概念を考えれば、既定のKPIを使うことが必ずしも良いとは限りませんが、指標を定義する際の視点は広がるのではないかと思います(ブレスト等でも役立ちそうですね)。

ちなみに、付録のKPIライブラリー集以外にも、各種チェックシートとして活用できる付表も、現在でも使えるとても有用な内容と感じます。


バランス・スコアカードの概念は理解しているけど、実践するにはちょっと壁が・・・と感じている方は勿論のこと、(バランス・スコアカードに限らず)具体的な活動指標を決めたいけど上手く纏められないという方には、オススメの本と思います。

紹介と言いながら・・・感想文のような内容になってしまいましたが、既に読んだ本でも改めて読むと、新たな気づきがあるものですね。

新刊のオススメは聞くことがあるのですが、昔の本を薦められる機会が少ないので、今回は敢えて???昔の(と言っても10年前ですが)本を紹介してみました。

きっかけは「書籍の整理」だったのですが、今回の気づきは・・・「(私のように)記憶力が怪しい?人間には「整理」という名の定期的な棚卸が必要」というちょっと悲しき?事実ですね。